ヘッジ取引の処理を詳説!~会計処理と税務上の関係について~
昨今の急激な為替や価格変動により、企業のビジネス、財務にもたらす影響も大きくなってきています。
これらの相場変動が企業にもたらす損失リスクを低減させるために、先物取引やオプション取引といったデリバティブ取引をヘッジ手段として用いる取引(ヘッジ取引)を行っている企業も少なくないと思います。
そこで今回は、企業がヘッジ取引を行った場合の会計・税務の処理を解説します。
目次
ヘッジ取引
ヘッジ取引とは、ヘッジ対象の資産又は負債に係る相場変動を相殺するか、ヘッジ対象の資産又は負債に係るキャッシュ・フローを固定してその変動を回避することにより、ヘッジ 対象である資産又は負債の価格変動、金利変動及び為替変動といった相場変動等による損失 の可能性を減殺することを目的として、デリバティブ取引をヘッジ手段として用いる取引をいいます(金融商品会計基準96項)。
ヘッジ会計
金融商品会計基準では、ヘッジ会計について以下のように定義しています。
ヘッジ会計とは、ヘッジ取引のうち一定の要件を充たすものについて、ヘッジ対象に係る損益とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を会計に反映さ せるための特殊な会計処理をいう。(金融商品会計基準29項)
なお、この一定の要件とは、いわゆる事前テスト・事後テストと呼ばれる次の(1)及び(2)を充たす場合をいい、すべてのヘッジ取引についてヘッジ取引が適用できるわけではありません。
(1) ヘッジ取引時において
ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、次のいずれかによって客観的に認められること
- 当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認できること
- 企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定及び内部統制組織が存在し、当該取引がこれに従って処理されることが期待されること
(2) ヘッジ取引時以降において
ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される状態又はヘッジ対象のキャッシュ・フローが固定されその変動が回避される状態が引き続き認められることによって、ヘッジ手段の効果が定期的に確認されていること(金融商品会計基準31項)
また、ヘッジ対象の識別は資産又は負債等の取引単位で行うことが原則ですが、一定の要件を満たす場合には企業内部の部門ごと又はその企業においてリスクの共通する資産又は負債等をグルーピングした上で、ヘッジ対象を識別することもでき、これを包括ヘッジといいます。
ヘッジ会計の種類
ヘッジ会計の方法については原則として繰延ヘッジと呼ばれる手法にて行い、その他有価証券については例外的に時価ヘッジによる方法も認められています。
- 繰延ヘッジ:時価評価されているヘッジ手段に係る損益又は評価差額を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部において繰り延べる方法。
なお、純資産の部に計上されるヘッジ手段に係る損益又は評価差額については、税効果会 計を適用します。 - 時価ヘッジ:ヘッジ対象である資産又は負債に係る相場変動等を損益に反映させることにより、その損益とヘッジ手段に係る損益とを同一の会計期間に認識する方法。
時価ヘッジは「その他有価証券」にのみ限定して適用することができ、ヘッジ対象であるその他有価証券の評価差額は、損益計算書に計上します。
ヘッジ取引の税務処理
税務上においても、金融商品会計基準のヘッジ会計に対応する関連規定が設けられています。
ヘッジ取引に係る税務処理は基本的に会計処理と同じ取扱いとなりますが、いくつかの点で異なる部分もあるため、注意が必要です。
① 繰延ヘッジに関する規定
税務上も、下記に記載する資産又は負債から生じる損失をヘッジするために行ったヘッジ手段であるデリバティブ取引のみなし決済による利益又は損失の額の計上を、ヘッジ取引の損益の計上時期まで繰り延べる繰延ヘッジの規定が整備されています(法人税法61条の6)。
ヘッジ対象となる資産又は負債等の損失額
- 資産*¹又は負債の価格の変動に伴って生ずるおそれのある損失
- 資産*¹の取得若しくは譲渡、負債の発生若しくは消滅、金利の受取若しくは支払その他これらに準ずるものに係る決済により受け取ることとなり、又は支払うこととなる金銭の額の変動に伴って生ずるおそれのある損失
*¹ 売買目的有価証券を除く。
② 時価ヘッジに関する税務規定
その他有価証券(売買目的外有価証券)について価格の変動により生ずる恐れのある損失を減少されるためにデリバティブ取引等を行った場合において、そのデリバティブ取引等がその損失の額を減少させるために有効であると認められるときは、そののヘッジ取引を適用する場合には、税務上も時価ヘッジ処理に対応する規定が設けられています(法人税法61条の7①)。
ヘッジ指定書の記載内容と帳簿記載要件
ヘッジ会計を適用するための事前テストの具体的な要件として、金融商品会計に関する実務指針において「ヘッジ対象とヘッジ手段の対応関係」や「ヘッジ有効性の評価方法」について文書によって明確にしなければならないと定められており、これらを記載した書類をヘッジ指定書と呼びます。
一方、税法においてはより詳細な帳簿への記載が求められており、その他、一例として以下のような要件の差があります。
会計基準 | 税法 | |
---|---|---|
記載内容 |
(金融商品会計実務指針143) ・ヘッジ対象のリスクやヘッジ手段との関係 ・相場変動又はキャッシュ・フロー変動の相殺の有効性を評価する方法 |
(法人税法施行規則27条の8) ・ヘッジ手段としたデリバティブ取引等が当該ヘッジ対象資産等損失額を減少させるために行ったものである旨 ・デリバティブ取引等の種類、名称、金額 ・ヘッジ期間 ・その他参考となるべき事項 |
有効性判定の時期 |
(金融商品会計実務指針146) ・決算時 ・少なくとも6か月に1度程度 |
(法人税法施行令121条,法人税法基本通達2-3-49) ・期末時及び決済時 ・会計基準に合わせて6か月時1度等の規則性のある一定期間事とすることも可 |
有効性判定の基準 |
(金融商品会計実務指針156) ・ヘッジ開始時から有効性判定時点までのヘッジ対象の相場変動又はキャッシュフロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュフロー変動の累計とを比較し、両者の変動額等を基礎にして判断 |
(法人税法61条の6) ・既経過分の時価変動額は判定の基礎から除かれる。未経過分の時価変動額を基礎として判定 |
有効性判定の省略 |
(金融商品会計実務指針158) ・ヘッジ手段とヘッジ対象の資産・負債又は予定取引に関する重要な条件が同一である場合等、ヘッジに高い有効性がある場合には、省略することができる |
・不可 |
金利スワップの特例処理
金利スワップの特例処理とはヘッジ会計の一種であり、通常期末に時価評価すべき金利スワップ(デリバティブ取引)について一定の要件を充たす場合に限り、時価評価をせず、その金銭(スワップ金利)の受払いの純額をそのヘッジ対象である資産又は負債に係る利息に加減して処理することができます。
一定の要件については下記のように定められています。(金融商品会計基準(注14))
資産又は負債に係る金利の受払条件を変換すること を目的として利用されている金利スワップが金利変換の対象となる資産又は負債とヘッジ会計の要件を充たしており、かつ、その想定元本、利息の受払条件(利率、利息の受 払日等)及び契約期間が当該資産又は負債とほぼ同一である場合には、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産又は負債に係る利息に加減して処理 することができる。
上記に加え、実務指針においてさらに厳格な要件が定められています。
まとめ
ヘッジ取引を行う場合には会計処理に加え、税務の面からも専門的な知識に基づく幅広い検討が必要となりますので、一度税理士へご相談されることをお勧めします。
BESO 坂本海
企業と経営者とともに成長していく、最も身近なパートナーを目指しています。