令和5年度税制改正で公表された電子帳簿保存法の新情報を解説
2022年1月1日から義務化された「電子取引に係るデータ保存」でしたが、2023年12月31日までの猶予期間が設けられています。
電子帳簿保存法が施行されてから、さまざまな変更や改正を繰り返しながら、そろそろ本格的な実施局面に入ってきたといえるのではないでしょうか。
2022年12月23日に閣議決定された「令和5年度税制改正の大綱」でも、電子帳簿等保存制度についての見直しが発表されました。
さまざまな事情で制度を実施できていない中小事業者でも行いやすいように、より要件を緩和する見直しが行われたといえます。
そこでこの記事では、「令和5年度税制改正で見直された電子帳簿保存法のポイント」などについて解説します。
目次
電子帳簿等保存制度の新情報
電子帳簿保存法は、「電子帳簿などの保存、書類のスキャナ保存、電子取引に係るデータ保存」の3つの側面から定められています。
「電子帳簿などの保存、書類のスキャナ保存」は任意ですが、「電子取引に係るデータ保存」は2024年1月1日から義務化されることになっています。
令和5年度税制改正では以下のように、この3つの側面すべてにおいて、条件を緩和する方向で見直しが行われています。
今回決まった見直しなどは、2024年1月1日から実施されることになっています。
- 優良な電子帳簿の範囲を明確化
- スキャナ保存制度の見直し
- 電子取引に係るデータ保存制度の見直し
電子帳簿保存法の概要などについては、弊社コラム「全事業所が対象となる改正電子帳簿保存法とは?2022年の対応ポイントを分かりやすく解説!」をご覧いただければ幸いです。
優良な電子帳簿の範囲を明確化
優良な電子帳簿とは、「記録の訂正削除を行った履歴が確認できる」「通常の業務処理期間を過ぎた後に入力した履歴が確認できる」などの一定の条件を満たしたものをいいます。
これを使用している場合には、申告漏れに科される過少申告加算税が10%から5%に減免される優遇措置があります。
しかし、この優良な電子帳簿の要件が曖昧かつ厳しかったため、優遇措置を利用できる企業が少ない状況にあります。
そこで今回の改正で、優良な電子帳簿の範囲を明確化しました。
優良な電子帳簿の範囲
優良な電子帳簿の範囲は以下のとおりとされました。
範囲が明確化されたことで、優良な電子帳簿とされるものが増加すると予測されます。
- 仕訳帳
- 総勘定元帳
- 次に掲げる事項の記載に係る上記①および②以外の帳簿
- 手形上の債権債務に関する事項
- 売掛金その他債権に関する事項
- 買掛金その他債務に関する事項
- 有価証券に関する事項
- 減価償却資産に関する事項
- 繰延資産に関する事項
- 売上げその他収入に関する事項
- 仕入れその他経費または費用に関する事項
※詳しくは令和5年度税制改正の大綱などをご確認ください
優良な電子帳簿を使用する際の注意点
優良な電子帳簿を使用して優遇措置を受ける際には、所轄税務署へ事前に届出が必要です。
また、帳簿は必ず期首からスタートする事が条件のため、帳簿変更などをする場合には計画的に行うようにしましょう。
スキャナ保存制度の見直し
スキャナ保存制度については、以下の3つの見直しが行われました。要件を緩和し、より実施しやすくしたものといえるでしょう。
スキャナで読み取った情報の保存要件を廃止
現行では「解析度・階調・大きさの情報」を、スキャンした画像データと一緒に保存しなければなりません。画像データと情報を一緒に保存するためには、自分で入力するかシステムを導入する必要がありました。
改正では、画像データ情報の保存は不要となり、スキャナ保存時の手間削減につながります。
ただし、スキャナ読み取り時の要件(解析度200dpi以上など)が、廃止になるわけではないのでご注意ください。
現行 | スキャナ読み取り情報と画像データを一緒に保存 |
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改正後 | 画像データのみ保存(スキャナ読み取り時の要件は現行どおり) |
記録事項の入力者等の確認要件を廃止
入力者等とは、スキャナで読み取った画像が、要件に該当することなどを確認した者のことをいいます。
しかし近年では、スキャナ保存業務もアウトソーシングや自動化が広まりつつあり、入力者等を明確にすることが困難になっています。
これらの実情をふまえて、今回の改正につながったといえるでしょう。
帳簿との関連性を確認するのは重要書類に限定
書類は一般書類と重要書類に分類され、今まではすべての書類において、帳簿との関連性を確認できるようにしておく必要がありました。
改正後には、重要書類のみ関連性が確認できればよくなります。
一般書類 | 見積書、注文書、検収書など |
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重要書類 | 契約書、領収書、納品書、請求書など |
電子取引に係るデータ保存制度の見直し
電子取引のデータ保存に関しては、以下の3つの見直しが行われました。
対象事業者は検索要件が不要に
電子取引データは、「取引年月日や取引金額、取引先名」などで検索できるようにしておく必要があります。
手作業の入力は事務負担が大きく、システム導入には費用がかかります。この点が電子帳簿保存法を運用するうえでの、ネックとなっていました。
今回の改正では、税務調査などの際に必要な書類をダウンロードできるように整備している場合には、以下の者は検索要件が不要とされることになります。
- 売上高が5,000万円以下の者
現行は売上高1,000万円以下の者が対象です。 - 電磁的記録の出力書面提出などの求めに応じることができる者
売上高が5,000万円を超えていても、対象者とされます。
保存を行う者等の確認要件を廃止
電磁的記録を保存する者等の情報を確認する要件が廃止されます。
今まで「誰が保存をしたのか」等を確認できる状態にしておく必要がありました。
しかし、実際の現場において社内の人間だけではなく、外部にアウトソーシングするケースなども増加しており、対応するのが非常に困難なケースが増えてきていました。そのような状況に、対応するかたちでの見直しといえるでしょう。
新たな猶予措置
2024年1月1日以降も以下のすべての要件を満たす場合は、義務化を猶予するとされました。
- 所轄税務署長が「相当の理由」があると認める場合
- 税務調査などの際に出力書面の提出やダウンロードの求めに応じられる場合
しかし、現状では「相当の理由」がどういったものか明示されておらず、公表されるのも2023年6月以降くらいになると思われます。
基本的には2024年1月1日からの義務化に対応する方向で、準備をすすめておきましょう。
電子帳簿保存法の最新改正点まとめ
2024年1月1日からの「電子取引に係るデータ保存」義務化に先立ち、令和5年度税制改正で大きな見直しが行われました。
電子帳簿保存法を構成する「電子帳簿などの保存、書類のスキャナ保存、電子取引に係るデータ保存」の3つの側面すべてで改正が行われています。
電子帳簿等保存制度を導入し、運用していくことが負担になっている中小事業者などに配慮した、要件を緩和する方向での見直しといえるでしょう。
電子帳簿等保存制度を導入することは、システム導入などの負担はありますが、運用が軌道にのれば業務効率化などのメリットも多くあります。
電子帳簿保存法などで疑問点や困りごとなどありましたら、気軽に弊社までお問い合わせください。